第三十五話
小さなヒドウの笑い声が、スノフォとノタの耳に聞こえた。
「あはは、ははははっ……、すいません、図星を指されて……あははっ」
スノフォはどう対応したら良いのか分からずに閉口していると、
「あははっ……」
ノタも笑いだした。そして、
「いいよ、鍵。あげても」
笑いながら言った。ヒドウはその言葉に反応して笑いが止まる。
先程まで口を閉じていたスノフォは口を開いて質問した。
「……本当、ですか?」
「ええ、こんなぐだぐだな戦いごっこをしていてもつまらない、あなた達が怖れてまでもこの鍵が必要なんだって分かったし、」
「お嬢様!」
ノタの言葉をガードマンが遮る。リヴィはその声に驚いて、向けていた銃を落としそうになった。ノタを見るガードマンを、リヴィとイニは口を閉じて見る。
「……自分は、あなたを守ると同時に鍵を守る義務を与えられました。あなたは鍵を手放すつもりですか?」
「そう。だって、鍵を守る意味だって無いもの。私が永遠にあの鍵を持つとしても何に使うの?」
「何を言っているんですか、あなたは鍵を守ると同時に、この建物を守る必要だってあるんですよ」
「守る意味が無ければ、必要も無い。この建物も同じよ」
「――何故ですか? 昔から受け継いできた物を手放すなど、」
「あなただって手放したものがあるじゃない。人のことは言えないわよ」
「確かにそうです、ね。しかし……」
「いいじゃないの持ち主が自ら手放すんだし。それでもあなたは私に逆らうとでも?」
「……いや、そんなつもりはありません」
ノタは部屋を出て、雷の鍵がある部屋へ入っていった。
残された五人の中で、ヒドウが最初にノタに続く。スノフォもゆっくりと続いた。
男三人が居る部屋で、イニが飛び出すように走って出ていった。リヴィも後を追って出ていく。
イニは雷の鍵がある部屋へ入った時、鍵やヒドウ達を一瞥もせずに走ってその部屋を出た。同じようにリヴィも一瞥せずに部屋を出る。
男一人だけが残された空間で、独り言が小さく響いた。
「すまないな」
ノタは雷の鍵を阻む壁の前に立って、小声で呪文を唱えている。ヒドウとスノフォはノタの近くで見守るように立っていた。
呪文が終わって、壁が空気に溶けていくように消える。
ノタは左手を伸ばして雷の鍵を手に取った。そのまま微笑した顔でヒドウに渡す。
「はい」
「……ありがとうございます」
「いいえ」
ヒドウはノタを改めて見ると、銃で撃たれていた右手が目に入った。見るのが痛々しくて、目を逸らして訊ねた。
「大丈夫ですか? 右手……」
「ええ、大丈夫よ。命に別状は無いだろうし、痛いけど。ヤーギャには腕のいい医者が居るからちゃんと治してくれる筈よ」
ヒドウは『ヤーギャ』が何を指しているか忘れていたが、スノフォが口を開いた。
「ああ、あの町のことですね。この建物を出てすぐにある」
「でも一応、この建物はヤーギャの観光名所らしいからここもヤーギャだけど」
あ、そうですねとスノフォが言った後、ヒドウは鞄に鍵を入れた。
ヒドウが改めて礼を言うと、
「どういたしまして」
ノタは微笑したまま、ガードマンが一人で残っている部屋へ戻った。
ヒドウが鍵を貰った後、イニは観光名所の建物の外で息切れをしていた。
周りに人はいない。
すぐに追いついたリヴィも、少しの間息切れをしていた。それが治まるとイニに質問する。
「どうすんの、これから」
「……どうしたらいいですかね」
イニは昨日を思い出した。ヒドウとスノフォに会って、旅をする仲間になっていいかと聞いた。
「そういえば昨日スノフォさんとヒドウさんに、旅に付いて行っていいか聞いたんですけど……返事がまだでした」
「……そうか」
「リヴィさんは、どうするんですか?」
「俺か? 俺はそうだな、イニに付いて行くよ」
「へ?」
リヴィの言葉に、イニは間の抜けた声を出した。
リヴィは笑った顔をしながら言う。
「だってさ、何回も偶然会ってさよならばっかりっていうのもあれだろ?」
イニは平然とした顔から、笑った顔に変わって言った。
「そうですね」
「あはは、ははははっ……、すいません、図星を指されて……あははっ」
スノフォはどう対応したら良いのか分からずに閉口していると、
「あははっ……」
ノタも笑いだした。そして、
「いいよ、鍵。あげても」
笑いながら言った。ヒドウはその言葉に反応して笑いが止まる。
先程まで口を閉じていたスノフォは口を開いて質問した。
「……本当、ですか?」
「ええ、こんなぐだぐだな戦いごっこをしていてもつまらない、あなた達が怖れてまでもこの鍵が必要なんだって分かったし、」
「お嬢様!」
ノタの言葉をガードマンが遮る。リヴィはその声に驚いて、向けていた銃を落としそうになった。ノタを見るガードマンを、リヴィとイニは口を閉じて見る。
「……自分は、あなたを守ると同時に鍵を守る義務を与えられました。あなたは鍵を手放すつもりですか?」
「そう。だって、鍵を守る意味だって無いもの。私が永遠にあの鍵を持つとしても何に使うの?」
「何を言っているんですか、あなたは鍵を守ると同時に、この建物を守る必要だってあるんですよ」
「守る意味が無ければ、必要も無い。この建物も同じよ」
「――何故ですか? 昔から受け継いできた物を手放すなど、」
「あなただって手放したものがあるじゃない。人のことは言えないわよ」
「確かにそうです、ね。しかし……」
「いいじゃないの持ち主が自ら手放すんだし。それでもあなたは私に逆らうとでも?」
「……いや、そんなつもりはありません」
ノタは部屋を出て、雷の鍵がある部屋へ入っていった。
残された五人の中で、ヒドウが最初にノタに続く。スノフォもゆっくりと続いた。
男三人が居る部屋で、イニが飛び出すように走って出ていった。リヴィも後を追って出ていく。
イニは雷の鍵がある部屋へ入った時、鍵やヒドウ達を一瞥もせずに走ってその部屋を出た。同じようにリヴィも一瞥せずに部屋を出る。
男一人だけが残された空間で、独り言が小さく響いた。
「すまないな」
ノタは雷の鍵を阻む壁の前に立って、小声で呪文を唱えている。ヒドウとスノフォはノタの近くで見守るように立っていた。
呪文が終わって、壁が空気に溶けていくように消える。
ノタは左手を伸ばして雷の鍵を手に取った。そのまま微笑した顔でヒドウに渡す。
「はい」
「……ありがとうございます」
「いいえ」
ヒドウはノタを改めて見ると、銃で撃たれていた右手が目に入った。見るのが痛々しくて、目を逸らして訊ねた。
「大丈夫ですか? 右手……」
「ええ、大丈夫よ。命に別状は無いだろうし、痛いけど。ヤーギャには腕のいい医者が居るからちゃんと治してくれる筈よ」
ヒドウは『ヤーギャ』が何を指しているか忘れていたが、スノフォが口を開いた。
「ああ、あの町のことですね。この建物を出てすぐにある」
「でも一応、この建物はヤーギャの観光名所らしいからここもヤーギャだけど」
あ、そうですねとスノフォが言った後、ヒドウは鞄に鍵を入れた。
ヒドウが改めて礼を言うと、
「どういたしまして」
ノタは微笑したまま、ガードマンが一人で残っている部屋へ戻った。
ヒドウが鍵を貰った後、イニは観光名所の建物の外で息切れをしていた。
周りに人はいない。
すぐに追いついたリヴィも、少しの間息切れをしていた。それが治まるとイニに質問する。
「どうすんの、これから」
「……どうしたらいいですかね」
イニは昨日を思い出した。ヒドウとスノフォに会って、旅をする仲間になっていいかと聞いた。
「そういえば昨日スノフォさんとヒドウさんに、旅に付いて行っていいか聞いたんですけど……返事がまだでした」
「……そうか」
「リヴィさんは、どうするんですか?」
「俺か? 俺はそうだな、イニに付いて行くよ」
「へ?」
リヴィの言葉に、イニは間の抜けた声を出した。
リヴィは笑った顔をしながら言う。
「だってさ、何回も偶然会ってさよならばっかりっていうのもあれだろ?」
イニは平然とした顔から、笑った顔に変わって言った。
「そうですね」
第三十四話
リヴィはノタのガードマンに言い終えた後、自分が着ている服の長袖の中で一丁の銃を腕の上ですべらせる。左手の手の平に出てきた銃を、構えた。右手にも銃を構えながら。
「もしもの時の為に隠しておこうと思ったけど、隠すことはやめました。あなたがこれに、身に覚えがあるかと思って」
「……俺に、本当のことを言ってほしい?」
「出来れば。そうじゃないと、こっちが誤解したままになるので」
ガードマンは笑みを見せて答えを言った。
「身に覚えはあるよ」
「やっぱり」
リヴィは笑みを見せてそう言った。
リヴィの後ろに居るイニが呟く。
「やっぱり似てますね」
自分の声が、リヴィに聞こえていたかはイニには分からなかった。が、それを合図にするようにリヴィが発砲した。二発。
ノタはその音に気付いても、自分のガードマンを見なかった。
ノタは発砲音を聞いてすぐ、短剣を握り直した。
ヒドウとスノフォは発砲音がした時、リヴィ達を見る為に首を回した。
「あら、余所見していていいのかしら?」
「あ……」
ノタの冷たい短剣の刃が、自分の首に当たっていたヒドウは小さい声を出すことしか出来なかった。ノタの方向に振り返ろうとしても首が回らない。
スノフォが口を開く。
「もし、私が手を出したらどうします?」
「それは分かっているんじゃないかしら」
微笑していたノタの顔が真顔に変わった。その顔でヒドウに質問する。
「降参して雷の鍵を諦める? そうした方がいいと思うけど。どうする?」
ヒドウはノタから視線をそらして、スノフォにその視線を向けた。
リヴィが両手から一発ずつ発砲した時、一発はガードマンの銃に当たった。もう一発は壁に当たった。ガードマンの右手から銃が落ちる。
「当てるつもりはあった?」
「一発だけ。その銃に」
「本当?」
「本当ですよ」
ガードマンは落ちた銃を拾う為に腰を曲げながら、
「本当だったら命中率落ちてないね、前と比べて」
「褒め言葉として有難く受け取っておきます」
また一発、リヴィが発砲した。
ヒドウの目の前で血が飛び散った。ノタの手から短剣が床へ落ちた音がした。その音がしてから、ヒドウは驚いているノタから離れることが出来た。スノフォの近くへ駆け寄ってから、リヴィ達を再び見て震える声で謝る。
「ごめ、ごめん!」
「無事で良かったけどな、今度からは気を付けろよ?」
「……はい」
ヒドウが小さい返事をしてから、リヴィは続けて独り言を言うようにノタへ、言葉を向ける。
「本当はその短剣に当てるつもりだったんですけどね。少しずれて手に当たってしまいました。すいません」
「……そう、長い距離だと命中率は落ちるのかしら?」
「そうですね、やっぱり」
ノタは改めて自分の手を見た。短剣を握っていた右手の甲から血が出ている。
「……どうしようかしら? 右手が使えなくても左手は使えるし、魔法だって使える」
「どうします? 右手を撃たれたぐらいで、俺達にあの鍵を譲るか譲らないか」
リヴィがそう質問すると、一つの発砲音が部屋に響いた。
「私のことを忘れていない、よね?」
リヴィは自分の長袖を見ると、小さい穴が開いていた。
ノタのガードマンが発砲した銃弾は、リヴィの長袖を貫通して壁に当たっていた。
「体に当たらなくて良かったです。最初から腕すれすれに撃つ、つもりでしたか?」
「そうだよ」
「本当だったらあなたも相変わらず、命中率落ちていないですね」
「どうも」
ノタのガードマンはそう答えると、続けて小さくははっと笑った。
「どうしてほしい、二人のお嬢さん?」
「雷の鍵を貰う許可が欲しいです」
苦痛でしゃがんでいたノタが、二人を見上げながら質問した答えにスノフォは即答した。
「あはっ……そろそろ、あなたにかけた魔法が解除されるかもね」
「そうだといいですね」
「そうね」
ノタは相槌を打ってから、ヒドウを見て言う。
「あなたは剣を持っても、人を刺す勇気は無いのね」
「……」
ヒドウは床に向けていた剣の刃をノタに向けた。
「……自分が生まれた場所は、人殺しは犯罪なんです」
「へぇ、でもここら辺りだって犯罪になって警察に捕まるわ。正当防衛なら無実だけど」
「ウチが生まれた場所はどんな理由でも有罪です。大きな怪我をさせただけでも捕まります」
「だから剣を持っても使えないのね。モンスター相手、だったら剣を使える?」
「……多分」
「そう、モンスター相手なら警察に捕まらないから安心しなさい。で、剣を私に向けているあなたは私を刺せないのね? 血を見るのが怖くて」
ヒドウは笑った。
「もしもの時の為に隠しておこうと思ったけど、隠すことはやめました。あなたがこれに、身に覚えがあるかと思って」
「……俺に、本当のことを言ってほしい?」
「出来れば。そうじゃないと、こっちが誤解したままになるので」
ガードマンは笑みを見せて答えを言った。
「身に覚えはあるよ」
「やっぱり」
リヴィは笑みを見せてそう言った。
リヴィの後ろに居るイニが呟く。
「やっぱり似てますね」
自分の声が、リヴィに聞こえていたかはイニには分からなかった。が、それを合図にするようにリヴィが発砲した。二発。
ノタはその音に気付いても、自分のガードマンを見なかった。
ノタは発砲音を聞いてすぐ、短剣を握り直した。
ヒドウとスノフォは発砲音がした時、リヴィ達を見る為に首を回した。
「あら、余所見していていいのかしら?」
「あ……」
ノタの冷たい短剣の刃が、自分の首に当たっていたヒドウは小さい声を出すことしか出来なかった。ノタの方向に振り返ろうとしても首が回らない。
スノフォが口を開く。
「もし、私が手を出したらどうします?」
「それは分かっているんじゃないかしら」
微笑していたノタの顔が真顔に変わった。その顔でヒドウに質問する。
「降参して雷の鍵を諦める? そうした方がいいと思うけど。どうする?」
ヒドウはノタから視線をそらして、スノフォにその視線を向けた。
リヴィが両手から一発ずつ発砲した時、一発はガードマンの銃に当たった。もう一発は壁に当たった。ガードマンの右手から銃が落ちる。
「当てるつもりはあった?」
「一発だけ。その銃に」
「本当?」
「本当ですよ」
ガードマンは落ちた銃を拾う為に腰を曲げながら、
「本当だったら命中率落ちてないね、前と比べて」
「褒め言葉として有難く受け取っておきます」
また一発、リヴィが発砲した。
ヒドウの目の前で血が飛び散った。ノタの手から短剣が床へ落ちた音がした。その音がしてから、ヒドウは驚いているノタから離れることが出来た。スノフォの近くへ駆け寄ってから、リヴィ達を再び見て震える声で謝る。
「ごめ、ごめん!」
「無事で良かったけどな、今度からは気を付けろよ?」
「……はい」
ヒドウが小さい返事をしてから、リヴィは続けて独り言を言うようにノタへ、言葉を向ける。
「本当はその短剣に当てるつもりだったんですけどね。少しずれて手に当たってしまいました。すいません」
「……そう、長い距離だと命中率は落ちるのかしら?」
「そうですね、やっぱり」
ノタは改めて自分の手を見た。短剣を握っていた右手の甲から血が出ている。
「……どうしようかしら? 右手が使えなくても左手は使えるし、魔法だって使える」
「どうします? 右手を撃たれたぐらいで、俺達にあの鍵を譲るか譲らないか」
リヴィがそう質問すると、一つの発砲音が部屋に響いた。
「私のことを忘れていない、よね?」
リヴィは自分の長袖を見ると、小さい穴が開いていた。
ノタのガードマンが発砲した銃弾は、リヴィの長袖を貫通して壁に当たっていた。
「体に当たらなくて良かったです。最初から腕すれすれに撃つ、つもりでしたか?」
「そうだよ」
「本当だったらあなたも相変わらず、命中率落ちていないですね」
「どうも」
ノタのガードマンはそう答えると、続けて小さくははっと笑った。
「どうしてほしい、二人のお嬢さん?」
「雷の鍵を貰う許可が欲しいです」
苦痛でしゃがんでいたノタが、二人を見上げながら質問した答えにスノフォは即答した。
「あはっ……そろそろ、あなたにかけた魔法が解除されるかもね」
「そうだといいですね」
「そうね」
ノタは相槌を打ってから、ヒドウを見て言う。
「あなたは剣を持っても、人を刺す勇気は無いのね」
「……」
ヒドウは床に向けていた剣の刃をノタに向けた。
「……自分が生まれた場所は、人殺しは犯罪なんです」
「へぇ、でもここら辺りだって犯罪になって警察に捕まるわ。正当防衛なら無実だけど」
「ウチが生まれた場所はどんな理由でも有罪です。大きな怪我をさせただけでも捕まります」
「だから剣を持っても使えないのね。モンスター相手、だったら剣を使える?」
「……多分」
「そう、モンスター相手なら警察に捕まらないから安心しなさい。で、剣を私に向けているあなたは私を刺せないのね? 血を見るのが怖くて」
ヒドウは笑った。
第三十三話
「……私は、あの鍵を守るように言いつけられた人の十代目。だからここに居る。この建物に来る途中は都会だったでしょ? 私はあそこに住んでいて、時々ここに来ている。本当は鍵を守らなきゃいけないから、ずっとここにいなきゃ駄目だけど」
「俺達のようにこんな奥まで来る人はいない、と」
「そう。それで偶然、私がここに来た時間とあなた達が来た時間が被った」
そう言った女の人は続けて自分の名前をノタと名乗る。隣に居るのはガードマンだと言った。ヒドウ達の四人も自分の名前を言う。
ヒドウが剣と盾をノタに見せて、緊張している声で言った。
「この部屋に入る前、これらがあったんですけど何故あんな場所に?」
「ああ……その二つ? 適当に置いておいただけ。その二つは、雷の鍵を守ってきた人がずっと使ってきた物。でも私は時空魔法が使えるし、剣よりもこっちの短剣のほうが気に入っている。だから別に持っていっても構わない。雷の鍵を手に入れてからだったらね」
それを聞いたガードマンがノタに言う。
「お嬢様……!」
「何?」
「あれらも、鍵と一緒に受け継いできた物では……」
「いいのよ、もし鍵が無くなってしまうのだったら後はどうでもいい、私は使わないし」
「そう言われましても……」
「要らない物はどうなってもいいじゃない」
「……はい」
「そこの四人さん、面白い話でも聞く?」
ノタが楽しそうな、柔らかい顔で質問する。
スノフォとイニが同じような顔で質問に答えた。
「聞きたいですね」
ノタは少し、いきいきとした表情で喋り始める。
「――――――ナユさんはこの世界にはいなかった。存在していなかった。どういう経緯かは知らないけど、ディグバさんは悪者だという設定でこの世界に居る。あの扉を創ったのはディグバさんで、鍵を創ったのもディグバさん。あの扉を壊そうとしているのもディグバさん。理由は分からないけどね」
リヴィがすぐに質問する。
「じゃあディグバさんは、自分で作った物を壊す為にゾンビになったのか?」
「そうかもしれない、分からないけど。別に信じたくなかったら、信じてくれなくてもいい」
「じゃあ……その話が本当だったら、ナユさんっていう架空の人物を創った理由は何ですか?」
スノフォもリヴィと同じで、声の調子は変わっていなかった。
「何か理由があって、ディグバは悪者のふりをした。そうしたら、その悪に対する存在を創らないといけない。だから適当な設定でナユっていう架空の人物を創り出した。その架空の人物を創り出したのはディグバかこの世界か、分からないけどね」
「……何故あなたがそんなことを知っているんですか?」
リヴィは興味がありそうな顔をしながら質問した。
「……雷の鍵を受け継いでいるからよ。
この建物を造って、鍵をここに隠した私の先祖はディグバに仕えていた。それだけ」
「なるほど」
そう言ったリヴィは、腰にあるホルスターに手を伸ばす。
「あなた達の話を聞かせてもらっていいかしら?」
「傷つけ合う勝負の後なら」
スノフォが微笑みながら答えた。
「理由は何?」
「それも、勝負が終わったら」
「死んでしまったら言うことも聞くことも出来ないわよ?」
「その心配は無いです。私達は、戦いでは死にませんよ」
「……あははっ。百パーセントの自信はある?」
「どうでしょうね? この世の中で百パーセントだなんてありえませんからね」
「……そうね。私が言ったことも嘘かもしれないし、あの鍵も偽物かもしれない」
ノタが笑顔のままで、続けて言う。
「じゃあ……準備はいいかしら? ほら、あなたも。よろしくね」
「……はい。お嬢様」
そう言ったノタのガードマンも、腰にあるホルスターに手を伸ばす。
ノタはヒドウに向かって走り出した。いつの間にか、短剣を右手に握っている。ヒドウは恐怖心で後ずさる。
ノタの短剣は空を切る。ヒドウは小走りになりながらも、よけることは出来た。
その間にスノフォは人の姿から、馬のような姿に変わった。
スノフォは速さのある水の塊をノタにぶつける。
その水の勢いで、ノタの手から短剣がすべり落ちた。
「びっくりした……」
自分にしか聞こえない小声でノタがつぶやく。それから右手で短剣を拾うと左手の手のひらを、スノフォに向けた。
時計らしき物がスノフォにまとわりついている。それを見たスノフォはノタに質問した。
「あなたの得意な時空魔法の、一つをかけましたね? 時間の流れを遅くする魔法を」
「ええそうよ。でもお口は遅くなってないけどね」
ノタは続けて、笑い声で言う。
「あなたの動きを完全に封じ込めちゃったら、戦いが楽しめなくなるでしょ? だから動きを遅くするだけにした。今、剣と盾を持っている子は……ねぇ?」
ヒドウにノタが笑みを見せる。
「あなたは――――」
そう言ったリヴィは、ノタのガードマンに銃口を向ける。
ガードマンもリヴィに銃口を向けて口を開く。
「何?」
「ノタさんのガードマンになったのはいつですか?」
「……何年前だろう、まあ最近かな。それがどうしたの?」
「俺の知っている人に、あなたと似ている人が居るんですよ。
その人と最後に会ったのは、どっちかと言えば最近なんです。何年か前ですけど。同一人物だという確かな証拠はありませんけどね」
「俺達のようにこんな奥まで来る人はいない、と」
「そう。それで偶然、私がここに来た時間とあなた達が来た時間が被った」
そう言った女の人は続けて自分の名前をノタと名乗る。隣に居るのはガードマンだと言った。ヒドウ達の四人も自分の名前を言う。
ヒドウが剣と盾をノタに見せて、緊張している声で言った。
「この部屋に入る前、これらがあったんですけど何故あんな場所に?」
「ああ……その二つ? 適当に置いておいただけ。その二つは、雷の鍵を守ってきた人がずっと使ってきた物。でも私は時空魔法が使えるし、剣よりもこっちの短剣のほうが気に入っている。だから別に持っていっても構わない。雷の鍵を手に入れてからだったらね」
それを聞いたガードマンがノタに言う。
「お嬢様……!」
「何?」
「あれらも、鍵と一緒に受け継いできた物では……」
「いいのよ、もし鍵が無くなってしまうのだったら後はどうでもいい、私は使わないし」
「そう言われましても……」
「要らない物はどうなってもいいじゃない」
「……はい」
「そこの四人さん、面白い話でも聞く?」
ノタが楽しそうな、柔らかい顔で質問する。
スノフォとイニが同じような顔で質問に答えた。
「聞きたいですね」
ノタは少し、いきいきとした表情で喋り始める。
「――――――ナユさんはこの世界にはいなかった。存在していなかった。どういう経緯かは知らないけど、ディグバさんは悪者だという設定でこの世界に居る。あの扉を創ったのはディグバさんで、鍵を創ったのもディグバさん。あの扉を壊そうとしているのもディグバさん。理由は分からないけどね」
リヴィがすぐに質問する。
「じゃあディグバさんは、自分で作った物を壊す為にゾンビになったのか?」
「そうかもしれない、分からないけど。別に信じたくなかったら、信じてくれなくてもいい」
「じゃあ……その話が本当だったら、ナユさんっていう架空の人物を創った理由は何ですか?」
スノフォもリヴィと同じで、声の調子は変わっていなかった。
「何か理由があって、ディグバは悪者のふりをした。そうしたら、その悪に対する存在を創らないといけない。だから適当な設定でナユっていう架空の人物を創り出した。その架空の人物を創り出したのはディグバかこの世界か、分からないけどね」
「……何故あなたがそんなことを知っているんですか?」
リヴィは興味がありそうな顔をしながら質問した。
「……雷の鍵を受け継いでいるからよ。
この建物を造って、鍵をここに隠した私の先祖はディグバに仕えていた。それだけ」
「なるほど」
そう言ったリヴィは、腰にあるホルスターに手を伸ばす。
「あなた達の話を聞かせてもらっていいかしら?」
「傷つけ合う勝負の後なら」
スノフォが微笑みながら答えた。
「理由は何?」
「それも、勝負が終わったら」
「死んでしまったら言うことも聞くことも出来ないわよ?」
「その心配は無いです。私達は、戦いでは死にませんよ」
「……あははっ。百パーセントの自信はある?」
「どうでしょうね? この世の中で百パーセントだなんてありえませんからね」
「……そうね。私が言ったことも嘘かもしれないし、あの鍵も偽物かもしれない」
ノタが笑顔のままで、続けて言う。
「じゃあ……準備はいいかしら? ほら、あなたも。よろしくね」
「……はい。お嬢様」
そう言ったノタのガードマンも、腰にあるホルスターに手を伸ばす。
ノタはヒドウに向かって走り出した。いつの間にか、短剣を右手に握っている。ヒドウは恐怖心で後ずさる。
ノタの短剣は空を切る。ヒドウは小走りになりながらも、よけることは出来た。
その間にスノフォは人の姿から、馬のような姿に変わった。
スノフォは速さのある水の塊をノタにぶつける。
その水の勢いで、ノタの手から短剣がすべり落ちた。
「びっくりした……」
自分にしか聞こえない小声でノタがつぶやく。それから右手で短剣を拾うと左手の手のひらを、スノフォに向けた。
時計らしき物がスノフォにまとわりついている。それを見たスノフォはノタに質問した。
「あなたの得意な時空魔法の、一つをかけましたね? 時間の流れを遅くする魔法を」
「ええそうよ。でもお口は遅くなってないけどね」
ノタは続けて、笑い声で言う。
「あなたの動きを完全に封じ込めちゃったら、戦いが楽しめなくなるでしょ? だから動きを遅くするだけにした。今、剣と盾を持っている子は……ねぇ?」
ヒドウにノタが笑みを見せる。
「あなたは――――」
そう言ったリヴィは、ノタのガードマンに銃口を向ける。
ガードマンもリヴィに銃口を向けて口を開く。
「何?」
「ノタさんのガードマンになったのはいつですか?」
「……何年前だろう、まあ最近かな。それがどうしたの?」
「俺の知っている人に、あなたと似ている人が居るんですよ。
その人と最後に会ったのは、どっちかと言えば最近なんです。何年か前ですけど。同一人物だという確かな証拠はありませんけどね」
プロローグ
昔、二つの世界で魔法や剣や銃などが戦争で使われていました。
一人の人は気付きました。
「戦争なんて、
魔法だとかがあるから起きてしまうんだろう? 無くせばいいだけのことじゃないか?」
その人は、二つの世界でそう発表しました。
その人は――――――
戦争が起こらなくなった世界で暮らすことになります。
そして最終的には、
一つの世界では――――――
昔のことを、“無駄な時代”と考えて戦争のことを記憶に残していません。
魔法や剣や銃は無くなりました。
もう一つの世界では――――――
昔のことを、“無駄な時代”と考えて戦争のことを記憶に残していません。
魔法や剣や銃は無くなりませんでした。
それでも戦争は起きていません。
今、その人が住んでいる世界で――――――
一人の人は気付きました。
「戦争なんて、
魔法だとかがあるから起きてしまうんだろう? 無くせばいいだけのことじゃないか?」
その人は、二つの世界でそう発表しました。
その人は――――――
戦争が起こらなくなった世界で暮らすことになります。
そして最終的には、
一つの世界では――――――
昔のことを、“無駄な時代”と考えて戦争のことを記憶に残していません。
魔法や剣や銃は無くなりました。
もう一つの世界では――――――
昔のことを、“無駄な時代”と考えて戦争のことを記憶に残していません。
魔法や剣や銃は無くなりませんでした。
それでも戦争は起きていません。
今、その人が住んでいる世界で――――――
魔帽子の少年と銃を所持している少年のある日
ある日、小さな少年がいました。
小さな頭の上に大きな魔帽子をかぶっています。
小さな手には、杖が握られています。
もう一人、その小さな少年より少し年上の少年がいました。
腰には一丁の銃と、それをしまっておくホルスターがあります。
その少年が旅に出てからある日のこと。
人の気配がして、後ろに振り向きました。手を銃のグリップに握らせます。
その頃の最新型だったそれは、安全装置が付いています。
装置をかけたままだと撃つことは出来ないので誤って引き金を引いても大丈夫です。
グリップを握ったまま、安全装置をかけたままで振り向くと小さな少年がいました。
先ほど書いた、魔帽子の少年です。
「!」
魔帽子の少年は銃を見て怯えだします。
銃のグリップを握っていた少年は、
魔帽子の少年の様子を見るとグリップから手を離しました。
「君はどうしたの?」
最初に声を発したのは、銃を所持している少年でした。
「…………」
魔帽子の少年は答えようとしません。
どう言えば良いのか、迷っているようです。
森の中に二人はいました。
二人とも、何故ここに居るのか質問をしてもおかしくはないです。
「えっと……」魔帽子の少年は何とか口を開こうとします。
「あ、無理に答えてくれなくてもいいよ」
「……」口を小さく開いたまま、魔帽子の少年は黙り込みます。
そのまま沈黙が流れてから、
「もしかして迷子?」
「違い……ます」
銃を所持している少年が不思議そうな顔をしました。
「え?」
「あ、いや……その、」
魔帽子の少年は言葉に詰まっています。
ふと、銃声が二人の耳に聞こえました。
魔帽子の少年は銃を所持している少年の銃を見ます。
目の前の人は撃っていない、と分かると安心した顔を見せました。
「……ほら、危ないよ」
「そう……ですね。じゃあここから、離れます」
軽く礼をした魔帽子の少年は、すぐに走って去っていきました。
銃声が聞こえた森の奥へ。
「あ、ちょっとお前……!」
銃を所持している少年は、魔帽子の少年を呼び止めようとしました。
それでも魔帽子の少年は止まりません。
銃を所持している少年が追いかけ始めました。
銃を所持している少年が魔帽子の少年にあともう少しで追いつく、と思った時です。
魔帽子の少年は止まって、息切れをしていました。
目の前には一人の大人と死体があります。
大人の男は両手に一丁ずつ銃を持っていました。
どちらとも旧式の物で、安全装置は付いていません。
死体は人ではなく、ドラゴンでした。この世界ではリュカ族と呼ばれている種族です。
紺色のような目と対照的に、紅色の血が目立っています。
男のスーツのようなズボンのすそと、靴には少し返り血がついています。
「また殺したんですか?」
魔帽子の少年が、男の人を見上げながら、にらみながら質問しました。
「お、久しぶりだね。うん……また殺した」
「未だ、あの時にあなたが言った言葉の意味が分かりません」
その言葉に対して、男の人が何か言おうとしました。その時に、
「久しぶり」
銃を所持している少年もにらみながら、男の人にそう言いました。
冷静な声です。
「おや……」
男の人は珍しそうな声を出してから、
銃を所持している少年の名前を確認しました。
「×××かい?」
「……ああ。まさか俺の名前を覚えてくれているとは思わなかった。お前は、」
「もし『違う』って言ったら?」
「だったら俺の名前は知らないはずだ。それにまだ何も言っていない」
「ははは、そうだね」
「親……父、だよな?」
「ああ……そうだ。私は君のお父さんだ」
男の人は微笑をしてみせて、
「今、こんなことをやっていても×××の父だ」と続けると、
銃を所持している少年の目が鋭くなりました。
魔帽子の少年はぽかんと口を開けたまま、その目に怯えています。
その目から逃れるためなのか、
紺の目と小さい白い羽を持っていたドラゴンへ近づきました。
小さいドラゴンは空を仰ぐように、血を流して息絶えていました。
魔帽子の少年はつぶやきます。
「リュカ族……」
無意識に手を握っていたことに気付いて、強く握りました。
そのままどうしたら良いか分からずに、無表情でしばらく握り続けていました。
銃を所持している少年が、男の人に言いました。
腰にある銃のグリップを握ったままで。
「“リュカ族殺し”という仕事ですか」
「そうだ。仲間と離れ離れになって、孤独感プラス早死にだ。
それならいっそ、孤独感に襲われてしまう前に楽にしてあげる。
お父さんは、この仕事に誇りを持っている」
「保護するっていう仕事もあるけど?」
「いずれ死ぬのならそんなことをやっても、意味の無いことだ」
銃のグリップを握ったままで、
銃口を向けようとしない少年は返す言葉が見つからずに黙っています。
その時、魔帽子の少年が静かに言いました。
息絶えてしまった、一人のリュカ族の手を握ったままで。
「何を言っているんですか? 生きていれば、楽しいことだってあります。
幸せだってあります。いつ死んでしまっても。
実際に、あなたと僕が知っているリュカ族の一人はそうでしたよ」
「でもね、皆がそう、ってことは無いんじゃないかな?」
「……そうかもしれませんね。
けれど生きること、というのは権利ではなくて義務なんです。
義務、という物をあなたが壊す権利等は、ひとかけらも無いと思いますが?」
「やっぱり、君には何ひとつ分かってもらえないのかな?」
「そうですね」
「じゃあさ、生きているから分からないのかな?」
「……それは、あの世へ行ってみたら分かるかもしれませんね」
魔帽子の少年の目には銃口が写っていて、口がそう動いていました。
逃げ出したい気持ちはありますが、
恨み等の感情をぶつける機会を逃すのも気は進みませんでした。
かと言って、機会を逃さずに生き延びる方法は見つかりません。
それに、もし逃げ出したとしても発砲される可能性が高いです。
どっちにしろ足はすくんで震えていました。
男の人は無表情で、一つの銃口を魔帽子の少年に向けたままグリップを握っています。
人差し指を引き金にかけた瞬間、発砲音が聞こえました。
男の人は撃っていませんでした。
旧式の、一丁の銃が土の上へ落ちました。
その銃の持ち主が発砲した人をにらむように見ます。
にらまれている、
銃を構えている少年も一丁の銃を落とした男の人をにらむように見ています。
銃を所持している少年が撃った弾は男の人がグリップを握っていた銃の、
バレルの部分に当たっていました。
バレルの部分に強い力が加わった銃は、するりと男の人の手から落ちました。
怯えていた魔帽子の少年は、落ちている銃へ杖を向けました。
すると、どこからか出てきた丸い水の固まりは銃をぬらして、銃口に入り込んでいきます。
男の人は驚いた顔を見せてからすぐに、
もう片方の手に持っていた銃の口を魔帽子の少年に向けました。
複雑そうな顔をしながら。
「水がこの中に入ってしまったら、もう使えねぇじゃないか……」
魔帽子の少年は慌てて杖を男の人へ向けて大きな水の固まりを出しました。
その水の固まりの真ん中を、銃弾は突き破りました。
「な、」
どうしたら良いのか、魔帽子の少年は分かりませんでした。
目を強くつむって、息絶えてしまった一人のリュカ族の手を更に強く握りました。
銃弾は、魔帽子の少年に当たらずに消えました。
魔帽子の少年が手を握っているリュカ族の、
紺色の目と同じ色をしたバリアが魔帽子の少年を包んでいます。
「え……?」
魔帽子の少年は、手を握っているリュカ族を見つめて微笑しました。
銃は連射されましたが、全てバリアに吸い込まれるように消えていきます。
銃を所持している少年は男の人に再度、銃口を向けました。
その少年の気配に気付いた男の人は、銃口の向きを変えます。
男の人が先に撃ちました。
銃を所持している少年は一、二歩だけ動いて銃弾を避けました。
その少年は二発、続けて撃ちます。
男の人も一、二歩動いて避けました。
二人とも、相手が撃ってくるところが分かっているようです。
「もし、こんな私でも生きる義務があるとするなら、
私を殺そうとしている君は一体何者なのかな?」
男の人は銃の撃ち合いをしている最中に、相手の少年へ質問しました。
「さぁ、自分でも分からないです。ただ、それはこっちの台詞でもおかしくない。
俺はあなたの行為が許せないからこんなことをやっている。何者だとかは関係無い」
その答えに対して、質問した人は棒読みのように「ふーん」とだけ言いました。
銃を所持している少年は、男の人の残像に騙されました。
少年が撃った一発が男の人の残像をかき消します。
「…………」
少年は後ろに振り返りました。
目の前に銃を突きつけられていて、銃口からは銃の中身が見えています。
男の人は手を動かそうとしません。
「撃たないのか、撃てないのかどっちだ?」
銃を向けられている少年は挑発するように質問しました。
男の人は残念そうな顔で答えます。
「……撃てない」
「何故だ?」
「手足が動かないんだ」
自分の手足が動かない理由は分かっています。
魔帽子の少年が男の人に杖を向けていました。
杖を男の人に向けている少年は、時空魔法で男の人の動きを止めていました。
「相手の目に錯覚させても無駄でしたね、親父。
気迫で、相手の目に残像を作らせるというフェイント。合ってますか?」
「……ははっ、正解だ」
その男の人の言葉を聞いた、銃を所持いている少年は銃を構えなおします。
「……俺からの最後の一言。俺は親父を、殺すことはしませんよ」
そう言った少年は、ゆっくりと引き金を引きます。
男の人に当たった弾は、銃弾そっくりに作られたゴム弾でした。
それが男の人のおでこに当たるとポトリ、と落ちて気絶させました。
男の人は仰向けに倒れました。
「逃げるよ、君」
力が抜けてしまった魔帽子の少年は我に返ります。
「あ、はい」
手をつないでいたリュカ族の手をゆっくりと離しました。
その後、土に埋める時間は無かったので魔法で小さな火を点けました。
紺色のバリアはゆっくりと消えていきます。
森の入り口まで、二人は来ていました。
銃を所持している少年が、魔帽子の少年の名前を聞きます。
魔帽子の少年はこう答えました。
「えっと……本当は△△△、というんですけど……□□、でいいですか?」
「□□?」
「はい。少し訳ありで」
「分かった。じゃあ、またいつか」
「え? あ……はい。そうですね」
「あの時、最初から魔法を使ってくれたら良かったのに」
銃を所持している少年はわざと不満そうな声でそう言います。
魔帽子の少年は、苦笑しながら言いました。
「……すいません。怖かったんです。失敗する可能性もあったんで」
「ふぅん。……じゃあ」
「あ、ちょっと待って下さい、助けてくれてありがとうございました。×××さん」
「いいえ、こちらこそ。□□君」
「それじゃあ、お元気で」
「ああ」
気絶していた男の人が目を開けました。
骨だけになっている一人のリュカ族が見えています。
魔帽子の少年が点けた火はもう消えていました。
男の人の手に握られていた、一丁の銃は息子さんに盗まれていました。
小さな頭の上に大きな魔帽子をかぶっています。
小さな手には、杖が握られています。
もう一人、その小さな少年より少し年上の少年がいました。
腰には一丁の銃と、それをしまっておくホルスターがあります。
その少年が旅に出てからある日のこと。
人の気配がして、後ろに振り向きました。手を銃のグリップに握らせます。
その頃の最新型だったそれは、安全装置が付いています。
装置をかけたままだと撃つことは出来ないので誤って引き金を引いても大丈夫です。
グリップを握ったまま、安全装置をかけたままで振り向くと小さな少年がいました。
先ほど書いた、魔帽子の少年です。
「!」
魔帽子の少年は銃を見て怯えだします。
銃のグリップを握っていた少年は、
魔帽子の少年の様子を見るとグリップから手を離しました。
「君はどうしたの?」
最初に声を発したのは、銃を所持している少年でした。
「…………」
魔帽子の少年は答えようとしません。
どう言えば良いのか、迷っているようです。
森の中に二人はいました。
二人とも、何故ここに居るのか質問をしてもおかしくはないです。
「えっと……」魔帽子の少年は何とか口を開こうとします。
「あ、無理に答えてくれなくてもいいよ」
「……」口を小さく開いたまま、魔帽子の少年は黙り込みます。
そのまま沈黙が流れてから、
「もしかして迷子?」
「違い……ます」
銃を所持している少年が不思議そうな顔をしました。
「え?」
「あ、いや……その、」
魔帽子の少年は言葉に詰まっています。
ふと、銃声が二人の耳に聞こえました。
魔帽子の少年は銃を所持している少年の銃を見ます。
目の前の人は撃っていない、と分かると安心した顔を見せました。
「……ほら、危ないよ」
「そう……ですね。じゃあここから、離れます」
軽く礼をした魔帽子の少年は、すぐに走って去っていきました。
銃声が聞こえた森の奥へ。
「あ、ちょっとお前……!」
銃を所持している少年は、魔帽子の少年を呼び止めようとしました。
それでも魔帽子の少年は止まりません。
銃を所持している少年が追いかけ始めました。
銃を所持している少年が魔帽子の少年にあともう少しで追いつく、と思った時です。
魔帽子の少年は止まって、息切れをしていました。
目の前には一人の大人と死体があります。
大人の男は両手に一丁ずつ銃を持っていました。
どちらとも旧式の物で、安全装置は付いていません。
死体は人ではなく、ドラゴンでした。この世界ではリュカ族と呼ばれている種族です。
紺色のような目と対照的に、紅色の血が目立っています。
男のスーツのようなズボンのすそと、靴には少し返り血がついています。
「また殺したんですか?」
魔帽子の少年が、男の人を見上げながら、にらみながら質問しました。
「お、久しぶりだね。うん……また殺した」
「未だ、あの時にあなたが言った言葉の意味が分かりません」
その言葉に対して、男の人が何か言おうとしました。その時に、
「久しぶり」
銃を所持している少年もにらみながら、男の人にそう言いました。
冷静な声です。
「おや……」
男の人は珍しそうな声を出してから、
銃を所持している少年の名前を確認しました。
「×××かい?」
「……ああ。まさか俺の名前を覚えてくれているとは思わなかった。お前は、」
「もし『違う』って言ったら?」
「だったら俺の名前は知らないはずだ。それにまだ何も言っていない」
「ははは、そうだね」
「親……父、だよな?」
「ああ……そうだ。私は君のお父さんだ」
男の人は微笑をしてみせて、
「今、こんなことをやっていても×××の父だ」と続けると、
銃を所持している少年の目が鋭くなりました。
魔帽子の少年はぽかんと口を開けたまま、その目に怯えています。
その目から逃れるためなのか、
紺の目と小さい白い羽を持っていたドラゴンへ近づきました。
小さいドラゴンは空を仰ぐように、血を流して息絶えていました。
魔帽子の少年はつぶやきます。
「リュカ族……」
無意識に手を握っていたことに気付いて、強く握りました。
そのままどうしたら良いか分からずに、無表情でしばらく握り続けていました。
銃を所持している少年が、男の人に言いました。
腰にある銃のグリップを握ったままで。
「“リュカ族殺し”という仕事ですか」
「そうだ。仲間と離れ離れになって、孤独感プラス早死にだ。
それならいっそ、孤独感に襲われてしまう前に楽にしてあげる。
お父さんは、この仕事に誇りを持っている」
「保護するっていう仕事もあるけど?」
「いずれ死ぬのならそんなことをやっても、意味の無いことだ」
銃のグリップを握ったままで、
銃口を向けようとしない少年は返す言葉が見つからずに黙っています。
その時、魔帽子の少年が静かに言いました。
息絶えてしまった、一人のリュカ族の手を握ったままで。
「何を言っているんですか? 生きていれば、楽しいことだってあります。
幸せだってあります。いつ死んでしまっても。
実際に、あなたと僕が知っているリュカ族の一人はそうでしたよ」
「でもね、皆がそう、ってことは無いんじゃないかな?」
「……そうかもしれませんね。
けれど生きること、というのは権利ではなくて義務なんです。
義務、という物をあなたが壊す権利等は、ひとかけらも無いと思いますが?」
「やっぱり、君には何ひとつ分かってもらえないのかな?」
「そうですね」
「じゃあさ、生きているから分からないのかな?」
「……それは、あの世へ行ってみたら分かるかもしれませんね」
魔帽子の少年の目には銃口が写っていて、口がそう動いていました。
逃げ出したい気持ちはありますが、
恨み等の感情をぶつける機会を逃すのも気は進みませんでした。
かと言って、機会を逃さずに生き延びる方法は見つかりません。
それに、もし逃げ出したとしても発砲される可能性が高いです。
どっちにしろ足はすくんで震えていました。
男の人は無表情で、一つの銃口を魔帽子の少年に向けたままグリップを握っています。
人差し指を引き金にかけた瞬間、発砲音が聞こえました。
男の人は撃っていませんでした。
旧式の、一丁の銃が土の上へ落ちました。
その銃の持ち主が発砲した人をにらむように見ます。
にらまれている、
銃を構えている少年も一丁の銃を落とした男の人をにらむように見ています。
銃を所持している少年が撃った弾は男の人がグリップを握っていた銃の、
バレルの部分に当たっていました。
バレルの部分に強い力が加わった銃は、するりと男の人の手から落ちました。
怯えていた魔帽子の少年は、落ちている銃へ杖を向けました。
すると、どこからか出てきた丸い水の固まりは銃をぬらして、銃口に入り込んでいきます。
男の人は驚いた顔を見せてからすぐに、
もう片方の手に持っていた銃の口を魔帽子の少年に向けました。
複雑そうな顔をしながら。
「水がこの中に入ってしまったら、もう使えねぇじゃないか……」
魔帽子の少年は慌てて杖を男の人へ向けて大きな水の固まりを出しました。
その水の固まりの真ん中を、銃弾は突き破りました。
「な、」
どうしたら良いのか、魔帽子の少年は分かりませんでした。
目を強くつむって、息絶えてしまった一人のリュカ族の手を更に強く握りました。
銃弾は、魔帽子の少年に当たらずに消えました。
魔帽子の少年が手を握っているリュカ族の、
紺色の目と同じ色をしたバリアが魔帽子の少年を包んでいます。
「え……?」
魔帽子の少年は、手を握っているリュカ族を見つめて微笑しました。
銃は連射されましたが、全てバリアに吸い込まれるように消えていきます。
銃を所持している少年は男の人に再度、銃口を向けました。
その少年の気配に気付いた男の人は、銃口の向きを変えます。
男の人が先に撃ちました。
銃を所持している少年は一、二歩だけ動いて銃弾を避けました。
その少年は二発、続けて撃ちます。
男の人も一、二歩動いて避けました。
二人とも、相手が撃ってくるところが分かっているようです。
「もし、こんな私でも生きる義務があるとするなら、
私を殺そうとしている君は一体何者なのかな?」
男の人は銃の撃ち合いをしている最中に、相手の少年へ質問しました。
「さぁ、自分でも分からないです。ただ、それはこっちの台詞でもおかしくない。
俺はあなたの行為が許せないからこんなことをやっている。何者だとかは関係無い」
その答えに対して、質問した人は棒読みのように「ふーん」とだけ言いました。
銃を所持している少年は、男の人の残像に騙されました。
少年が撃った一発が男の人の残像をかき消します。
「…………」
少年は後ろに振り返りました。
目の前に銃を突きつけられていて、銃口からは銃の中身が見えています。
男の人は手を動かそうとしません。
「撃たないのか、撃てないのかどっちだ?」
銃を向けられている少年は挑発するように質問しました。
男の人は残念そうな顔で答えます。
「……撃てない」
「何故だ?」
「手足が動かないんだ」
自分の手足が動かない理由は分かっています。
魔帽子の少年が男の人に杖を向けていました。
杖を男の人に向けている少年は、時空魔法で男の人の動きを止めていました。
「相手の目に錯覚させても無駄でしたね、親父。
気迫で、相手の目に残像を作らせるというフェイント。合ってますか?」
「……ははっ、正解だ」
その男の人の言葉を聞いた、銃を所持いている少年は銃を構えなおします。
「……俺からの最後の一言。俺は親父を、殺すことはしませんよ」
そう言った少年は、ゆっくりと引き金を引きます。
男の人に当たった弾は、銃弾そっくりに作られたゴム弾でした。
それが男の人のおでこに当たるとポトリ、と落ちて気絶させました。
男の人は仰向けに倒れました。
「逃げるよ、君」
力が抜けてしまった魔帽子の少年は我に返ります。
「あ、はい」
手をつないでいたリュカ族の手をゆっくりと離しました。
その後、土に埋める時間は無かったので魔法で小さな火を点けました。
紺色のバリアはゆっくりと消えていきます。
森の入り口まで、二人は来ていました。
銃を所持している少年が、魔帽子の少年の名前を聞きます。
魔帽子の少年はこう答えました。
「えっと……本当は△△△、というんですけど……□□、でいいですか?」
「□□?」
「はい。少し訳ありで」
「分かった。じゃあ、またいつか」
「え? あ……はい。そうですね」
「あの時、最初から魔法を使ってくれたら良かったのに」
銃を所持している少年はわざと不満そうな声でそう言います。
魔帽子の少年は、苦笑しながら言いました。
「……すいません。怖かったんです。失敗する可能性もあったんで」
「ふぅん。……じゃあ」
「あ、ちょっと待って下さい、助けてくれてありがとうございました。×××さん」
「いいえ、こちらこそ。□□君」
「それじゃあ、お元気で」
「ああ」
気絶していた男の人が目を開けました。
骨だけになっている一人のリュカ族が見えています。
魔帽子の少年が点けた火はもう消えていました。
男の人の手に握られていた、一丁の銃は息子さんに盗まれていました。
第三十二話
壊された扉の向こうには、壁に埋め込まれた雷の鍵があった。硬そうな透明の壁が鍵を守っている。
最初に興味津々なイニが、鍵の方向へ走っていった。
鍵に雷の絵が描かれているのを見て、
「これ、雷の鍵じゃないですか?」
その言葉を聞いた瞬間にスノフォが駆けつける。ヒドウもスノフォに続く。
あまり興味が無さそうなリヴィはゆっくり歩きながら、口を開いた。
「じゃあさ、この建物の電灯や暖房の元はそれだったのか?」
スノフォとイニがなるほど、という顔をする。が、ヒドウが質問した。
「でも鍵ってさ、勝手に動くことは無いって聞いたことあるよ?」
「ナユさんが動くように設定したんだろう、
この建物に住んでいた人が快適に暮らせるようにかは知らないが」
ヒドウもああなるほど、と言った。
「これ、どうすれば取り出せられるんだろう?」
そう質問したスノフォは透明な壁に手を置きながら、鍵を眺めている。
同じように鍵を眺めているイニが、スノフォに向かって言った。
「……魔力が高いですね、この壁。魔法でも打撃でも壊せそうにないです」
「どこかにスイッチとかは?」
スノフォが壁から手を離して、辺りに何か無いか捜し始める。
ヒドウもスノフォの言葉に反応して捜し始めると、入り口付近の左端にある置き物に目をつけた。
黒いローブをまとっていて、黒いシルクハットのような帽子をかぶっている。一見男の人の像に見えたが、
「……ディグバ?」
「へ?」
「この像の人の服装とかがディグバと同じだったような……」
「確かにそうだね。……この建物ってディグバと関係あるのかな?」
あ、と言ったヒドウが像の後ろにあった剣と盾を見つけた。
その二つを盗んだヒドウが、自分を見ているスノフォに笑ってみせる。
それからヒドウは像の背中にあったスイッチを押すと後ろに扉が現れた。
それに気づいた興味津々な一人が、駆け寄ってドアノブに手をかけながら言う。
「入ってみますよね?」
扉が開く音が響いた。
「あら、誰かしら?」
一人の背の高そうな女の人が、イニを見た。
「ノックもせずにねぇ」
「……失礼」
イニは、黒いドレスを着て椅子に座っている女の人にそう返した。
ふと気がつくと、女の人の近くにサングラスをかけている男の人が居る。
その男の人は歩いて、入ってきた四人に近づいた。警戒している声で質問する。
「お嬢様に何か御用ですか?」
リヴィが面倒くさそうに別に何も無いです、と答えようとするのをスノフォが遮った。
「あの鍵を私達にいただけませんか?」
スノフォが緊張を見せずに、柔らかい顔を見せてみる。
その顔を見た男の人は、女の人を見て質問する。
「……お嬢様、どうしますか?」
「……そうね、最近面白いことも無いし。私の相手をしていただけるかしら?」
スノフォが質問する。
「どういう意味ですか?」
「まずは私の話を聞いてもらってから……それから勝負を。私はどういう人物なのか、何故こんな場所に居るのか。それは気になるでしょう?」
「気になりますね」
「それから勝負ね。私に勝ったら、あの鍵を遮っている壁のスイッチを教えてもいいわ。
あなた達の実力が私に勝るかは分からないけど」
「勝負って、傷つけ合う勝負ですよね?」
「そうよ」
二人の会話が一旦止まると、男の人が女の人に質問した。
「お嬢様、いいのですか?」
「いいのよ、楽しいことならばどんなことでも。楽しめたほうが勝ちよ」
女の人はそう言って、ふふっと笑い始めた。
最初に興味津々なイニが、鍵の方向へ走っていった。
鍵に雷の絵が描かれているのを見て、
「これ、雷の鍵じゃないですか?」
その言葉を聞いた瞬間にスノフォが駆けつける。ヒドウもスノフォに続く。
あまり興味が無さそうなリヴィはゆっくり歩きながら、口を開いた。
「じゃあさ、この建物の電灯や暖房の元はそれだったのか?」
スノフォとイニがなるほど、という顔をする。が、ヒドウが質問した。
「でも鍵ってさ、勝手に動くことは無いって聞いたことあるよ?」
「ナユさんが動くように設定したんだろう、
この建物に住んでいた人が快適に暮らせるようにかは知らないが」
ヒドウもああなるほど、と言った。
「これ、どうすれば取り出せられるんだろう?」
そう質問したスノフォは透明な壁に手を置きながら、鍵を眺めている。
同じように鍵を眺めているイニが、スノフォに向かって言った。
「……魔力が高いですね、この壁。魔法でも打撃でも壊せそうにないです」
「どこかにスイッチとかは?」
スノフォが壁から手を離して、辺りに何か無いか捜し始める。
ヒドウもスノフォの言葉に反応して捜し始めると、入り口付近の左端にある置き物に目をつけた。
黒いローブをまとっていて、黒いシルクハットのような帽子をかぶっている。一見男の人の像に見えたが、
「……ディグバ?」
「へ?」
「この像の人の服装とかがディグバと同じだったような……」
「確かにそうだね。……この建物ってディグバと関係あるのかな?」
あ、と言ったヒドウが像の後ろにあった剣と盾を見つけた。
その二つを盗んだヒドウが、自分を見ているスノフォに笑ってみせる。
それからヒドウは像の背中にあったスイッチを押すと後ろに扉が現れた。
それに気づいた興味津々な一人が、駆け寄ってドアノブに手をかけながら言う。
「入ってみますよね?」
扉が開く音が響いた。
「あら、誰かしら?」
一人の背の高そうな女の人が、イニを見た。
「ノックもせずにねぇ」
「……失礼」
イニは、黒いドレスを着て椅子に座っている女の人にそう返した。
ふと気がつくと、女の人の近くにサングラスをかけている男の人が居る。
その男の人は歩いて、入ってきた四人に近づいた。警戒している声で質問する。
「お嬢様に何か御用ですか?」
リヴィが面倒くさそうに別に何も無いです、と答えようとするのをスノフォが遮った。
「あの鍵を私達にいただけませんか?」
スノフォが緊張を見せずに、柔らかい顔を見せてみる。
その顔を見た男の人は、女の人を見て質問する。
「……お嬢様、どうしますか?」
「……そうね、最近面白いことも無いし。私の相手をしていただけるかしら?」
スノフォが質問する。
「どういう意味ですか?」
「まずは私の話を聞いてもらってから……それから勝負を。私はどういう人物なのか、何故こんな場所に居るのか。それは気になるでしょう?」
「気になりますね」
「それから勝負ね。私に勝ったら、あの鍵を遮っている壁のスイッチを教えてもいいわ。
あなた達の実力が私に勝るかは分からないけど」
「勝負って、傷つけ合う勝負ですよね?」
「そうよ」
二人の会話が一旦止まると、男の人が女の人に質問した。
「お嬢様、いいのですか?」
「いいのよ、楽しいことならばどんなことでも。楽しめたほうが勝ちよ」
女の人はそう言って、ふふっと笑い始めた。






